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久保紘一さん/NBAバレエ団芸術監督・コロラドバレエ団元プリンシパル/日本・アメリカ久保紘一さん プロフィール1989年6月 第6回モスクワ国際コンクールでトップの成績を16歳でジュニア・シニア男女合同にて獲得する。
1990年8月 ボストンバレエ団のゲストダンサーとして招聘、客演1991年10月コロラドバレエ団のプリンシパルとして迎えられた。
1991年~2009年 米国コロラドバレエ団プリンシパルとして在籍
1994年11月 ニューヨーク公演ではNYタイムスで「完璧なるバレエの巨匠」といわれるほど、小柄ながらもダンスクラシックの精神を体現している舞踊家として米国で高い評価を確立。
1998年9月 日本人で初めてダンスマガジンの表紙を飾り、彼の特集が紹介された。
1999年10月 モスクワボリショイ劇場やNY、また米国のベイル市などの世界ガラ公演に出演、風格在る様式美からなる彼の踊りは辛口の評論家からも絶賛されている。
2000年5月 米国市民権取得 
今までに「ドン・キホーテ」「ジゼル」「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」「コッペリア」「ロミオとジュリエット」「シンデレラ」「白鳥の湖」等、殆どの古典の全幕作品のタイトルロールを踊り、バランシン、創作作品などでの全てに主演している、又彼の為に作られた作品も数多くある。
2010年 NBAバレエ団にバレエマスターとして、招聘される。
2012年6月 芸術監督に就任。
-アメリカと日本のバレエ団の大きな違いはなんですか?
久保 一言で言ってしまえば、プロフェッショナルであるかないかですね。ちゃんと海外だと給料もらって、労災にも入って、怪我したときのサポートもあるし、もうとにかく待遇面でまったく違うじゃないですか。職業として向こうは給料もらって成り立っているけど、こっちはそうじゃないって、そこがまず一番の違いですよ。
-NBAバレエ団としてもやはり目指すところはその海外のバレエ団と同じようにダンサーとしての地位を確立できるようなところですか?
久保 そりゃそうですよ。
-その為にはどうしたらいいとお考えですか?
久保 まずは構造改革じゃないですか。ただウチのバレエ団だけがそういうふうにしようと思ってもできないから、こりゃもう、本当は日本にあるバレエ団が全部一致団結してやらないとできないとこではあるんですが、そこが非常に難しいですよね。そりゃ皆仲良く手繋いでって世界じゃないから。でもやっぱりひとつは集客率。(プロフェッショナルなバレエ団が先か資金集めが先か)「鶏が先か卵が先か」の世界ですけど、文化の違いってはありますね。おそらく都内でバレエ団は密集してて、おそらく10以上。これだけ密集してて、しかも海外からも来て、お客さんにしても分散しちゃいますよね。日本の場合縁故関係でダンサーがチケット売ってるから、「この舞台今度観に来てください」って言われても1ヶ月に10も20も行けないわけですよ。そうなるとワァっと舞台がある中で今月はこれだけにしようとか、来月はこれにしようってなる。文化芸術に興味のある企業さんもこれだけあると分散しちゃうじゃないですか。(集客率が上がらない)原因はいっぱいありますよ。でも、あまりにも東京近郊に舞台が多すぎる、バレエ団が多すぎるっていうのが理由のひとつ。もし、東京にバレエ団が2,3しかなかったらそれだけお客さんは観に行きますよ。
-その点コロラドバレエは地域に密着した活動なのでしょうか?
久保紘一さん/NBAバレエ団芸術監督・コロラドバレエ団元プリンシパル/日本・アメリカ久保 そうですね、リージョナルカンパニーって言って地域に1つしかない。大体各大きい都市には1つバレエ団があるじゃないですか。そのシティとかステート(州)とかの名前のバレエ団があるじゃないですか。そこは地域の誇りとして盛り上げてくれる。だからアメリカのバレエ団なんてほとんどドネーション(寄付)、ほぼ普通の人の寄付で成り立っている。もちろんスポンサーとかもあるけど、航空会社とか銀行とか、あとはほとんど個人。
-そのあたりを日本でも変えていこうとお考えですか?
久保 時間はかかるけどね。でも言い続けてないと変わらないっていうのがあるからね。自分にも言い聞かせていかないといけないってね。
-バレエの指導方法で海外と日本の違いを教えてください。
久保 まず海外は子供を厳しくしない。海外って、僕アメリカしか知らないけど、「嫌だったらどんどん辞めちゃいなさい」というように子供たちも甘やかされてスポイルされて育ってるから「行きたくない、辛い」ってなったときに「じゃあ辞めなさい」ってなっちゃう。褒めて育てるのは良いとは思うけど、反面ちょっとでも辛いことがあるとすぐ辞めちゃう。そこで個人差はあるでしょう。アメリカ人でも辛くてもガッツがある子は居るけれど。傾向としてやっぱりそうじゃないですよね。
-バレエに必要な要素としてどちらの方がいいと思いますか?
久保紘一さん/NBAバレエ団芸術監督・コロラドバレエ団元プリンシパル/日本・アメリカ久保 これは僕の持論になるけど、やっぱりなるべくリラックスさせて本人の持っている実力を引き出してあげる方が理にかなっていると思います。結局、こちら側が緊張したりが怒ったりしたら、(生徒が)萎縮しちゃうじゃないですか緊張したり。緊張した中からいいものは生まれない。特に芸術ってバレエみたいなものって感情を出すじゃないですか、あれってリラックスしてないと出ないですから。だからいかにダンサーの実力を引き出すか、それには声を荒げたりするのは駄目なんじゃないかな、って思いますよ。難しいですよね、これって。
-NBAバレエ学校でもそのような環境づくりを重視されているということですか?
久保 そう、最近体制がガラッと大きく変わって、まだね、僕が学校の方に携わるようになって3,4ヶ月なので、そこまで浸透しているかどうかはあるけど。前はねぇ厳しかったみたい。でも今体制変わったからそういった意味では(指導方法、環境づくり)してますよ。
-海外で学ぶことについてどう思いますか?メリット/デメリットなどあったら教えて下さい。
久保 両方ありますよね。日本では先生と一対一で密着型に近い距離で内弟子みたいな感じで一から十までこと細かく教わる感じだけど、それがいきなり海外に行っちゃうと、衣食住全部自分で管理しなくちゃいけないし、ようするに上手くなりたいんだったら、自分で這い上がっていかないといけないスタイル。海にポーンと投げ出されるようなスタイルだから、一から十までこと細かく教わらないとできない子には向かないかもしれないですよね。逆に逞しくて、マイペースで図太いのは上手になるかもしれない。もちろん海外でも良い先生いっぱい居るけど、基本的にいっぱい生徒が居る中で一人だけ日本人のこの子だけ「よしよし」ってやるわけじゃないから、控えめな性格は駄目ですよね。ドンドン、ガンガン来ないと。奥に居たら、遠慮してるのが美しいっていうのが日本で言われてるんだったら、遠慮してたら海外だとやる気が無いと思われる。
-海外生活で苦労した点とかありますか?
久保紘一さん/NBAバレエ団芸術監督・コロラドバレエ団元プリンシパル/日本・アメリカ久保 いやぁ~いろんな人に「苦労してきたねぇ」って言われるけど、あんまり苦労したと思ってないんだよね。そりゃ言葉の問題とかあるかもしれないけど。アメリカに引っ越して2週間くらいでね、アパートの窓をショットガンで打たれたこととかあったけどね(笑)生まれて初めて死ぬ気で匍匐前進(ほふくぜんしん)したってね(笑)。それでアパートの大家さんに「こんなことがあったから部屋変えてくれ」って言ったら、「あ~じゃぁもう一回同じことあったら考えてあげるよ」って言われました。
-それで帰りたくなったりしなかったんですか?
久保 帰りたくなったりしなかったね、でもそこで気づいたのは文化の違い。18で初めての海外生活でガス、水道、電気全部自分で手配しなくちゃいけなかったからねぇ~。例えばアメリカにはクレジットという制度があって、ヒストリーがないとローンが組めないとか、そういうことも初め分かんないじゃないですか。とにかく知らないことだらけで、それが苦労だったんだろうけど“喉元過ぎれば熱さを忘れる”みたいな♪
-海外へ行く前に語学の勉強はされて行きましたか?
久保 3ヶ月くらい駅前留学したかな。でもやっぱり(学んだのは)現地に行ってからかなぁ~♪でも助かったのは、バレエはわりと喋らなくても出来ちゃう仕事だから、稽古場の中だけ通じてしまえば、プライベートは喋らなくてもなんとかなるから(笑)。そういった意味では例えば医療とか、絶対喋らなきゃ仕事にならないのとは違いますよね。
-最初にアメリカを選ばれた理由とかありますか?
久保紘一さん/NBAバレエ団芸術監督・コロラドバレエ団元プリンシパル/日本・アメリカ久保 いや~それがね~特にないです。 
-流れとかですか?
久保 そうですね。僕身長が高くないから日本でバレエやってくのに向いてないってなって思って。アメリカだったら実力主義で見てくれるから良いっていうのはありましたね。
-留学するにあたっての心構え、準備しておいた方がいいことがあったら教えてください。
久保 英語圏じゃなくても英語は喋れた方がいいですね。言葉の交流ができればみんなと打ち解ける。ただ言ってる事が矛盾しているように聞こえるけど、孤独じゃなきゃいけないところも絶対ある。他の人に合わせて、自分は練習したいのに「もう帰ろう」っていうから自分も打ち切って帰るっていうのはね。絶対そういうのはマイペースの方が良いけれど、逆に周りと打ち込めないのも良くないと思う。だから言葉が駄目で孤立して帰ってきちゃうっていうのはかわいそうだけど、そうならない為にオープンマインドっていうか、社交性っていうかどんどん話し合っていかないとね。よく日本人グループで固まっちゃうのはあるけど、僕は、あれはオススメしないですね。なるべくそこに居る皆と話して、そうすればまた喋れるようになるし。それでやることは必ずやり遂げて帰る。体調管理は当然だけど、そのためにも羽目外さないってことだね。
-では、次回公演ドラキュラのみどころを教えていただけますか。
久保紘一さん/NBAバレエ団芸術監督・コロラドバレエ団元プリンシパル/日本・アメリカ久保 そりゃぁもう、今まで見たことない素晴らしい装置とリアルな衣装とオリジナルの楽曲と、そして天才振付家の織り成す今まで見たことないエンターテイメントバレエですよ。バレエっていうか、喋らないミュージカルみたいなものかな。
-今後のバレエ作品とはどのようなものが必要だと考えますか?
久保 やっぱり、新旧織り交ぜてバランスとるのが大事だと思う。やっぱり昔のことも知らなきゃ前に進めないし。古典も踏まえて新しいものにチャレンジしていくってことですよ。
-ダンサーの技術的にもですか?
久保 もちろん。技術的には日々ダンサーが頑張らなきゃいけないとこです。
-日々ダンサーの可能性は広がっているように思うのですが、
久保紘一さん/NBAバレエ団芸術監督・コロラドバレエ団元プリンシパル/日本・アメリカ久保 なんていうのかなぁ、昔の方がより個性的な人も多かったし、とんでもないような、信じられないような人って多かったですよね。今はわりと粒は揃っているけど、爆発的な、スター不足。世界的にも言われていることじゃないですか。今、スター不足って。インターネットが発達してみんないろんなことが出来るようにはなったけど、突出した才能ってのはないよね。皆大人しいよね。さっき図太いって話しましたけど、大雑把では駄目ね、繊細さは必要だからね。動きとかにしても、「まぁいいや今日は帰っちゃおう」っていうのは駄目ですよ。図太さは必要ですけど、譲れないってことは必要だし、自分が納得するまで帰らないっていうのは大事だよね。
-留学を目指される方々の参考になるお話を伺えたと思います。本日は貴重なお時間をどうもありがとうございました。
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