Interview

対談・プロに聴く

あなたにぴったりの留学を
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根占晶子さん/ダンスアート講師/オーストリア・ウィーン根占晶子さん プロフィール愛媛県松山市出身。3歳よりバレエを始め、15歳で単身上京し東京バレエ学校に入学。その半年後にベルギーへ渡り約1年間バレエカンパニーで研修を行う。その後スイス・チューリッヒでバレエ、コンテンポラリーを学んだ後ドイツ又スイスの様々な都市でフリーランスダンサーとして活動する。2004年よりオーストリア・ウィーンに拠点を移しバレエ教師としてキャリアを積む。
現在教師を務めているダンスアーツ校長のボリス・ネビラ率いるNebylaDanceCompanyのダンサー兼振付アシスタントとしても活躍中。
-まず根占さんの簡単な略歴を教えていただけますか?
根占 3歳でバレエを始めました。愛媛出身なのですが高校進学の時に東京に出て、半年後にヨーロッパ、最初はベルギーに出て、小さなカンパニーで研修生として1年弱働きました。そのカンパニーの契約が終わった時に日本に帰る予定だったのですが、もう少しヨーロッパに残りたいと思ってスイスのバレエ学校を見つけ、そのまま留学することになって、留学を経てフリーランスとして働きました。その後ドイツの劇場に入った後に、またスイスに戻って、さらに3年ほどチューリッヒにいました。そのまま残りたかったのですが、ビザの関係で滞在ができなくなってしまったので、隣のオーストリアに行ってみようという感じで、ウィーンに来たのが9年前です。
-高校に入る時に東京に出て、高1の時にすぐにヨーロッパに行かれていたのですね?
根占 そうですね。
-中学を卒業してすぐには行かなかったのですね?
根占 はい、海外に出たいという意識はあったのですが、まだピンとしていなくて。ただ愛媛から出たいというだけで。
-中学を卒業して高校に入って、そんなに時間が経ったわけでもなくベルギーに行かれたのはどんな理由からですか?
根占 すべて母がオーガナイズをして。東京って、いろいろ魅力があるじゃないですか。愛媛から単身で東京に出た時に、もちろんバレエもやっていたのですがバレエ以外のことにも気が散るようになってしまいました。母が「それならもっとバレエに集中できる所の方がいいんじゃないか」と、勝手にビデオを送っていて「あなた行ってきなさい」という感じで。
-日本の高校は普通高校ですか?
根占 音高です。というのも、やはり保護者との同居でないと通学ができないというのが基本で、学生寮があって可能だったんです。私がたまたま中学高校と合唱をやっていて、その関係で音楽にも興味があったということもありました。
-当時は音楽とバレエを両方やっていたのですか?
根占 そうですね。ピアノもやっていて。
-音楽とダンス、両方ともやっていたんですね。ベルギーにビデオを出されたというのは、カンパニーに出されたのですか?
根占 はい。当時、舞台や音楽関係の新聞があって毎月購読していたのですが、そこに研修生募集の広告を見つけていたらしく。試しにビデオを送ったら受け入れていただいたので、という感じです。
-向こうのカンパニーに入った時は、現地の学校(高校)には通ったのですか?
根占 いえ、行っていません。
-音楽を全くやらなくなったということですか?
根占 そうですね。高校生になった時に、尊敬していた先輩から「本当に極めるなら、どちらか一つにしなさい」と言われて、それもあって留学を決めたんです。
-最初にダンスに興味を持ったきっかけはなんだったのですか?
根占 3歳からやっているのですが、あまり記憶がなくて(笑)。母に連れられてバレエに通っていて、小学校高学年からはもうバレエばっかりでした。それが、私が好きなことだな、という風に。
-やっていておもしろかったのでしょうか?
根占 体を動かすのが好きだったのもあると思います。
-体育も得意だったりしましたか?
根占 そうですね。
-その時はもう音楽はやっていたのですか?
根占 歌は小学校4年生からやっていました。
-心の中では、ダンスの方が面白いなというのはあったのですかね?
根占 私の中で、合唱は学校内でのアクティビティであって、バレエは外でのお稽古事という感じだったので、取り組み方が違ったというのはありますね。ピアノもずっとやっていたのですが、ピアノに関しては好きだけどバレエほどではないという感じで。
-今現在、メインとしているダンスの種類はなんですか?
根占 クラシックバレエです。私が教えているのはクラシックバレエですが、校長がカンパニーを持っていて、そちらだとコンテンポラリーです。私はアシスタント兼ダンサーという感じで(アシスタントの方が重点が大きいのですが)そのカンパニーでも活動しているので、バレエとコンテンポラリーをやっていますが、メインで教えているのはクラシックバレエです。
-なぜバレエだったのですか?
根占 大きな理由としては、昔から続けていたというのがあると思います。他に学生時代にジャズのレッスンなどもあったのですが、それを極めたり、そちらをメインにという考えにはならなかったですね。
-ヨーロッパでもいろんな留学先があると思うのですが、留学先としてスイスがいいとかオーストリアがいいとか、良い点悪い点があれば教えていただけますか?
根占 私がチューリッヒを選んだ決め手というのが、個人的に先生が気に入ったからなのです。その後思ったのは、結局バレエ学校を卒業したらみんなオーディションを受けてカンパニーを探すのですが、スイスに限らずヨーロッパは国がつながっているので、どこにでも行きやすいんですね。そうすると情報もすごく入ってくるし、オーディションにしても移動がスムーズで、夜行電車などでも行けます。
弟がウィーンにいるのですが、彼が小学校を卒業してウィーンに留学してきて、現地校に通いながらバレエ学校に行っていたのです。それですごくいいなと思ったのが、勉強の学校とバレエ学校の提携がしっかりしているという点でした。
-弟さんは、一般の学校に通っているんですよね?(卒業してます)
根占 (指定の)バレエ学校の生徒は、こちらの寄宿舎学校の高校制度の学校に無条件で入れるんです。低学年は午前中勉強して午後からバレエなのですが、バレエ学校と高校とが同じ組織なので、バレエ学校の公演があるので学校に出れませんとなれば、必ず補習をしてくれます。
-語学などはどうなのでしょう?
根占 留学生のための、特別のドイツ語教室は開いてくれるようです。
-では当初からペラペラで行く必要はまったくないということですね?
根占 そうですね。弟は挨拶程度しかできなかったのですが、寮に入れてしまったのがよかったのでしょうね。若い子は覚えが早いので、あっという間にコミュニケーションをとるようになって、覚えていきました。苦労していたとは思いますが(笑)。その高校にはバレエ以外の生徒さんもいて、例えば音楽や美術、いわゆる芸術系の専門学校に通っている子のための高校なんです。
-ではバレエだけという中・高校ではないのですね?
根占 はい。バレエ科というのがあって、1学年に1クラス、バレエ学校に通っている子のクラスがあります。そのクラスでバレエ史を教えてくれたりもします。バレエの方が忙しいと授業に追いつかなくなるので、そのクラスだけ週6でお勉強もしています。バレエ科だけは月~土という感じです。
-話をもとに戻しまして、留学先としては、ヨーロッパ内ならそんなに違いはないのですか?
根占 そうですね。ただ、いわゆる国立のバレエ学校がある所とない所があるので、その差は出てくると思います。
-例えば東欧はどうでしょうか?
根占 いろいろ話を聞きますと、東に行ってしまうと治安の問題はあるようです。
-留学先を決める上で、学校や国などで何が一番重要だと思いますか?
根占 一度現地に行って、様子をみてから決めるのがベストだと思います。なかなか日本からだとできかねるとは思うので、できるだけの情報を集めるのがよいと思います。行ってみたらこんなはずじゃなかったのに、という経験をされている方も結構いると思うのですが、それは国や街に関してもだし、バレエ学校の中の先生や周りの子たちがどんな感じかなどの情報を収集することですね。期待を裏切られるということはないと思いますが、例えば私の知っている子で、行ってみたら周りの子があまり上手ではなくて、自分の士気が下がるというような話も聞きました。
-一般的に講習会などに行ってから、というのがベストだということですよね?
根占 そう思います。
-仕事について、外国人が有利な点・不利な点などはありますか?
根占 有利な点は、ほぼないと思います(笑)。私が今思いつくかぎり、日本人だからというメリットはないです。ただ正確さという面でいうと、日本人はまじめという感覚が外国人の方にもあるようなので、振り付けも日本人はすぐに正確に覚えるんですね。ただ、それがプラスになるかと言ったら……どうでしょう(笑)。日本人はテンポも振りもしっかり覚えているので、カンパニーによっては大事にしてくれるというか、まじめさをかってくれることもあると思いますが、それが必ず有利になるかというと……。変な話、まじめにやっているのに認められないこともあるので。デメリットはビザの関係で手続きが困難だったり、バレエは体系が重視されるので、手足の長い外国人の方が有利だったりもあると思います。でも最近は日本人の子もスタイルが変わってきていますね。
-そういう時代の流れもあるのですね?
根占 バレエ団などを見ていて、ウィーンに日本人もいるのですが、見劣りしないですね。
-ビザはカンパニーがサポートしてくれるのですか?
根占 基本的にはそうですね。ただ私はフリーランスでやっているので、それは自分でやらなくてはならなくて、毎年更新だと面倒くさいというのもありますし、お役所手続きが一番私の中では……。
-ウィーンもフリーランスのビザがとれるのですね?
根占 芸術家ビザというのがあるんです。
-長くダンスに携わって生活の一部になっていると思いますが、ダンスとは根占さんにとってなんなのでしょう?
根占 生活そのものと言ってしまうと大げさですが、なくてはならないものですし、それが中心でまわっているので、生活の中心という感じですね。
-これがない生活は考えられないですよね?
根占 そうかもしれないです。わからないですが(笑)。ただ、さっきの話に戻るのですが、ビザがおりなかった場合にどうする?となって、日本に帰ることを考えたこともあります。そうなったら全く別のことをやるという道もなくはないと思うのですが、なんだかんだでダンスに携わるのかなとも思います。
-よっぽどのことがない限り、途切れることはないでしょうね。
根占 そうですね。これで30年近くやっているので。
-根占さんにとってダンスでの今後の夢はありますか?
根占 個人としては、今はできるだけ若い子たちを育てたいというのがあります。
-教育者としての方に興味があるのですね?
根占 そうですね。怪我もしましたし、現役ダンサーとしてはそんなに使えないので(笑)。
-育てることは面白いですか?
根占 面白いですね。ちょっとアドバイスをして、その子ができなかったことがその一言によって変わったりとか。今もそうなのですが、コンクールに子供たちを出すにあたって、コンクールに出て結果がよければそれにこしたことはないのですが、コンクールに向けて練習を重ねているプロセスがすごく面白いです。
-今教えている学校には日本人はいるのですか?
根占 一人留学生がいます。あとは小さい子たちで、現地に駐在でいらっしゃっている方のお子さんが5人くらいいます。
-日本人と外国人とで、出来具合は違いますか?
根占 一概には言えないですが、日本人の方が飲み込みが早いと思います。一つ言ったらすぐに反応してくれるのは日本人の方です。外国人は何度説明しても感覚がつかめない子もいるみたいです。それが100%日本人だから、というわけではないですが。でも覚えが早いのは確実に日本人ですね。
-ウィーンには、日本人以外の外国人も多いのですか?
根占 多いですね。ロシア人の子もいます。周辺のスロバキアとかハンガリーとかから通っている子もいます。昔はウィーンに住んでいたけれど、ホームシックでハンガリーから毎日通っている子なども。ハンガリーから2時間くらいで通えるらしいんです。
-プロになりたいと思う人は、どういったステップをふんでいくのがいいと思われますか?
根占 やはりヨーロッパの学校に通うのがいいと思います。バレエはヨーロッパのものなので、バレエの技術以外でも一度ヨーロッパに来て、どういう街なのかとか、すべてをひっくるめてヨーロッパのことを知ることで、そこからクラシックバレエならクラシックバレエの感覚が養われると思います。日本で活躍するにせよ、ヨーロッパで活躍するにせよ、一度外の世界をみて進むのが大事かなと思います。ただ、こちらでオーディションまわりをする人で語学ができない人が多く、この子たちはどうやってプロになるつもりなんだろうと思う子もいます。
-まったくできないと?
根占 そうですね。かたこと英語がしゃべれるくらいだったりするので、それだとやはり自分が困ると思うんです。
-コミュニケーションがとれないですものね。
根占 そうなんです。だから最低限でも語学、英語ができるように確実に勉強すると良いと思います。
-プロへのステップとして一番やらなければならないこととしては、まずは語学ですか?
根占 そうですね。
-あとはヨーロッパに行く、サマーコースに参加するなどして現地をみるということでしょうか?
根占 そうですね。厳しい世界なので、例えばプロのオープンなオーディションなど空きが一つしかない所に100人くらい来たりするんです。その100人の中でどれだけ目立つかという部分があって、そこで自分の実力が発揮できないと終わりです。だから本当はそういうオープンなオーディションに行くよりは、現地の学校に行ってから、個人的に売り込みをする方がチャンスは大きいです。
-根占さんは最初に先生を知っていたとのことですが、先生を知らない方もたくさんいますよね。その場合にはどうやって学校などを決めるのでしょう?
根占 もちろん名前の売れている学校など、大きな所ではロイヤルバレエ学校などはベースもしっかりしていますし、ある程度安心して行けると思います。私が行った学校や、今教えている学校もそうなのですが、プライベートの学校だとお試しでレッスンが受けられたりもするので、それを利用してみるのもよいかと思います。あとは国立のオペラ座などもそうですが、卒業生がどういう所で活躍しているかをみて、安心できるかなと思います。リサーチは大事だと思います。
-ヨーロッパに行くなら、ベストは何歳くらいですか?
根占 早ければ早いほどいいと思います。中学校卒業して、くらいですかね。音楽などは問題ないと思うのですが、バレエは賞味期限が短いのでなるべく早いうちから行くべきです。弟がいい例で、体が育ちきる前にヨーロッパで教育を受けることができたので、日本人にありがちな筋肉ムキムキの足にならなかったのがよかったと思います。本当は小さいうちからこちらでというのが理想ですね。
留学となると中学生以降になると思うのですが、できることならもっと早い方がいいと思います。言葉も覚えやすいですし。ただ、自分で何がいい何が悪いという判断ができないうちに来てしまうのも、どうなのかなとも思います。だからある程度中学生くらいまでは、日本で親御さんの元にいらっしゃった方がいいかなと思います。私は弟がオーストリアに来たこともあってオーストリアを選んだので。
-いくつまでなら、留学してもいいと思われますか?
根占 目的にもよりますが、プロになりたいなら18歳だと遅いくらいですかね。うちの学校は、年齢制限はありませんが、オペラ座の学校では18歳だともう遅いんです。プロでは18歳くらいからとってくれるので、そうすると18歳で留学だとギリギリマックス。プロではなく、自分はバレエの先生になりたいとか、もっと何かを極めるために1年間留学したいなどの場合は年齢は関係ないと思います。プロになるために留学するのであれば、やはり17~18歳がマックスかなと思います。
-プロになることはご自分で決める方が多いのですか?親御さんの意志もあるのでしょうか?
根占 半々でしょうか……。いやいや来ている子もいますし。あとはコンクールのスカラシップで1年留学する子もいますが、そういう子は漠然と「スカラシップをもらったので来ました」とか。“人それぞれ”というのも、そもそも海外が合うか合わないかも大事で、海外にずっと住みたいといって留学するのと、経験のために留学するのと2パターンあると思うんですよね。来てみたはいいけれどすぐに帰ってしまった子もいます。
-プロのダンサーになれる秘訣や成功する条件はあると思いますか?
根占 例えばテクニックも容姿も同じレベルのダンサーが2人いたとして、その後のアピールが大事になってくると思います。自己アピールがちゃんとできる子の方が、カンパニーのディレクターも「今後働きやすいな」と感じる所があると思うので。もちろんテクニックとか踊りのポイントはちゃんとした上で、自分をどれだけ売り込めるか、表現できるかが関わってくると思います。
-それは会話なども含まれますか?
根占 そうですね。
-では語学ができないと話にならないということですよね?
根占 そうだと思います。人の手をかりて、通訳をお願いして乗り切っている子もいますが、自分が一番困ると思います。英語が通じる街ならいいですが、特に東欧では英語が全く通じない街もありますし、そうすると特に難しくなってくると思います。
-プロになりたい、海外に出たいと思っている方にアドバイスをお願いできますか?
根占 私の経験からだと、海外に出てきた時に、頭だけや最初の思い込みだけで、例えば「日本の先生からこう習ったのでこれは確実にこうでなきゃいけない」とか、「こういうつもりだったからこうでなくちゃいけない」とか、自分の中でブロックしちゃう方を何人か見てきています。せっかく海外に出てきているのだから何でも吸収して、人の話を聞くなり、自分で観にいくなり、積極的にいろんな情報を取り入れることが大事だなと思いますね。固執しないことですかね。「私は日本でこう習ってきたので」という子をみると、なんのために来たのかな?と感じます。せっかく海外に来ているのだから、海外のものを積極的に取り入れるのがいいと思います。間違っているかどうかは最終的に判断すればいい話で、取り込めることはすべてなんでもいいから吸収する。その上で、最終的に自分で判断するというプロセスが絶対に必要だと思います。特に日本人はシャイな方が多いので、聞きたくても聞けないという子もいますが、そういうものもとっぱらって。日本だと先生と対等に会話ができないこともありますが、海外ではそうでなくて、チャンスは向こうからはやってこないので、自分で食らいついていかないと、という感じですね。
-日本と違って海外では先生に話しかけても問題ないと?
根占 逆に先生に黙ってヘルプを求めても何もしてくれないので、ヘルプが必要な時はちゃんと言わなければならないし、聞きたいことは必ず聞くようにするというのが第一ですね。
-本日はありがとうございました。