-簡単な自己紹介 4歳~高3の7月まで約13年半ピアノのレッスンを受けており、また、中1~高2までの5年間、弦楽部に所属してヴァイオリンを弾いていました。2つの楽器を弾けるようになることで、それぞれの経験をもう片方に生かすことができ、表現の幅が広がったことに対して楽器を弾く楽しさ、音楽を表現する楽しさを感じるようになっていきました。その後ヴァイオリンはほとんど弾く機会がなくなりましたが、ピアノについては家でたまに過去に習った曲などをさらっと弾く程度ではありますが、レッスンを受けずに細々と続けていました。 ただその中で何か目的があるわけでも助言があるわけでもないため、過去に弾いていた曲が弾けなくなったり、一定のレベルから復活できない状況が続き、苦手な部分の克服ができないなど上達が難しいことに気付きました。その状況から少しでも脱却する機会がほしいと思い、アマチュアでも参加できるような音楽留学を探していたところ、オーディションがなくレベルを問わず受けて入れてもらえるアンドビジョンのウィーン冬期音楽講習会にたどり着き、参加に至りました。 -専攻 ピアノ -参加コース名 ウィーン冬期音楽講習 -参加期間 2024年12月28日~2025年1月5日 -今回ご留学なさってみていかがでしたか?全体的なご感想をお願いします。 短期間ではありましたが、音大の教授・ピアニストでもある先生方から、手の使い方・弾きやすい指使い・曲の背景を細かく教えていただいたり、他の方のレッスンを見学させてもらうことで、自分のレッスンでは余裕がなくて吸収しきれなかった部分を学ぶことができ、大変実り多い時間となりました。 レッスン以外の部分としては、5年前に観光旅行でウィーンに訪れた際に行けなかった観光地に一人でひたすら行ってみたり、現地スタッフの方に紹介していただいたお店や音楽に関わるスポットに寄ってみたり、今回の講習会に参加したからこそ行ける観光を楽しみました。その中でも参加者の何人かと一緒にシュテファン大聖堂の前で2025年を迎え、その数時間後にそこで行われたニューイヤーコンサートの中継をマイナス3度の中観覧したことは、とても思い出深いものとなり、冬期講習会だからこその醍醐味を味わうことができました。 -特に印象に残ったことは何かありますか?(講習会、生活面などいろいろな点で) ウィーン国際空港のトイレではポップにアレンジした「美しき青きドナウ」や「アイネクライネナハトムジーク」が流れ、ホテルに到着するとエントランスでホテル名の「ドナウワルツァー」にちなんで様々なワルツが、部屋に入るとラジオのクラシックチャンネルが流れていたことが「音楽の都」らしい!と最初に印象に残ったことでした。週末になると、ホテルでの朝食中にピアノとヴァイオリンの生演奏を聴くこともできました。シュテファン大聖堂前でのニューイヤーコンサートの中継観覧中には、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」が流れると赤ちゃんを抱っこしたお母さんとそれを見ているお父さんが曲に合わせてあやしていたり、「美しき青きドナウ」が流れると舞踏会のように踊りだす人たちが何組もいたことがウィーンらしい光景だなと印象に残りました。 レッスンで最も印象に残ったことは、弱い音を出すときの手の使い方です。手を平たく使い第一関節のあたりで弾くイメージだという指導を受け、最初は大変戸惑いました。しかし、言われた通りこれまで苦手だった弱い音を弾いてみると一瞬で変わり、それは忘れられない瞬間となりました。 また、1回目のレッスンの冒頭で「考え方を変えないといけない」と先生に言われてしまったことも強く残っています。最後にレッスンを受けてから17年も経ってしまった私は、気が付けばどんどん自己流で弾くようになり、自分の耳障りがいいように音符の長さをアレンジしてしまっていました。そこを楽譜に書いてある音符の長さと違うから直すようにという意味で、「考え方を変えないといけない」という言葉をいただきました。 -***レッスンについて*** -担当講師名 シュテファン・アーノルド先生、カール・バート先生 -1クラスの参加人数 1人 (講習会全体で8人) -レッスン回数 4回 -レッスンの進め方 まずは一度止められるまで自分が練習してきたように弾いてみて、問題があるところを中心に指使い・ペダル使い等を細かく教えていただくスタイル。 -講師・レッスンの印象(どんなレッスンでしたか?日本との違いなど) 前半2回のレッスンはカール・バート先生でした。雰囲気は優しい先生でしたが、指導については結構はっきりとおかしいところを指摘するという印象を受けました。1時間のレッスンの進め方(細かい指導とある程度流すところの配分)を含め、日本で習っていた先生の指導方法にとても近かったので、受けれ入れやすかったです。また、修了コンサートで酷い演奏となり落ち込んでいた私に、奥様と一緒に優しく励ましてくださり救われました。 後半2回のレッスンはシュテファン・アーノルド先生でした。過去の参加者の方が怖いイメージだったと体験談で語っているのを読んでいたので心配していましたが、実際は表情豊かに曲が持つ背景や雰囲気を教えてくださり、言葉よりも先にその先生の表情で自分がどう弾くべきか理解したという感じでした。また、私が先生の前で緊張して理想通りに弾けなくて困っている時に、「ピアノが、音楽が好きだということが伝わる演奏だ」と仰ってくださり、思わずそれまで耐えてきた劣等感が爆発してしまい、涙が止まらなくなってしまいました。 2人の先生に共通する指導は、「手を平らに使うこと」「無駄な動きはしない」「指使いをよく考える」ということでした。日本では手を丸く使い、手首も柔軟に使って魅せる弾き方をするというのが比較的スタンダードなように感じていますが、その逆の弾き方をしなければならなかったので、1回2回のレッスンですぐ自分のものにはできませんでした。指使いについては、お二人とも私の手の小ささも考慮しながら、どうしたらメロディーラインが出るかを真剣に考えてくださり、短い時間の中で楽譜に記載されているものとは違う指番号を考えてくださいました。お陰で大分弾きやすくなったり、出すべき音が聞こえるようになりました。 お二人とも、普段音楽をやっていない私が本講習会に参加していること自体を尊重して、凄いことだと仰ってくださり、その温かさと懐の深さを感じました。感謝しています。 -通訳はいてよかったですか?何か問題はありましたか? 通訳の方がいらっしゃったお陰で、先生の言葉の詳細が分かり大変良かったです。レッスンは基本ドイツ語・たまに英語だったので、ニュアンスはなんとなく理解できても、それ以上は自力で理解するのは難しかったです。また、音楽に知識がある方だったので、ご自身としてのアドバイスもしてくださいました。ただし、自分が言いたいことをどこまでお願いして先生に伝えてもらっていいのか、その加減が難しかったです。簡単なことだけでも直接先生に伝えられるに越したことはないと思いました。 通訳の方に朝から晩まで通訳をしなければならず大変ですね?とお聞きした際に、皆の成長を感じられるから良いんだと前向きな回答をいただき、ただの通訳ではなくて音楽が好きだからこそ成り立っていることなんだと感じました。素敵な方に通訳をしていただけたことに感謝しています。 -***宿泊施設について*** -宿泊形態 ホテル -良かった点 ピアノでの参加者が全員同じホテル滞在であったため、朝食や練習室等への移動を共にすることができたことは大変良かったです。ホテルは最寄駅と近く、比較的安全に夜道も帰ってくることができる場所で、練習室や観光地がある駅へのアクセスもよく、安心感がありました。 また、ホテル名をはじめとしてホテル内のBGMや内装等からも音楽を感じることができたため、音楽好きにはたまらない環境でした。人通りこそ多くはなかったですが、少し歩いたところにスーパーやドラッグストアもあり、昼間であれば気軽に必要なものやちょっとしたお土産の調達が可能な立地でした。 私の部屋はベッドが2つあり、机もあり、スーツケースを広げてもそこまで狭くない部屋でした。また、洗面用の流しも横に広く、そこで手洗いで洗濯をすることもできました。 -悪かった点 日によって掃除の質にばらつきがあったことです。平均すると特筆するほど悪かったわけではないですが、床を丁寧に掃除してくれる日、ベッドを丁寧に整えてくれる日など人や日によって重点的に掃除をする場所が違うようで、2回ほど床を掃除してほしいとメモとチップで頼んだことがありました。一度目は英語で書いたところ分からなかったようで、綺麗になった形跡はなくチップも置いたままでしたが、二度目はドイツ語で書いたところ「無料で掃除してあげる!」という返事をくれて、チップを受け取らず掃除がされていました。また、トイレットペーパーの補充が数日されなかった日が続き全部使い終わってしまい、フロントに貰いに行ったこともありました。 -***国や都市、滞在した街について*** -実際に行ってみて、この国や都市の印象はいかがでしたか?(治安面、交通面、街の人の印象など) 治安面については、日中は練習やレッスンがあったため、夕方~夜にかけて観光することが多かったですが、シュテファン大聖堂周辺やその隣接地域であれば、人通りもありそこまで大きな心配をせずに過ごすことができました。とは言っても、外国人の女性が一人で夜道を歩くことの一定のリスクはあるため、一人で行動する時は、ホテルには遅くとも20時には戻れるように意識はしていました。一度だけドナウ川見たさに夕方からドナウ川のど真ん中にある駅に向かい降りたところ、周辺は暗く川は見えず、駅もその周辺も人通りがほとんどなかったため、さすがに慌てて滞在時間10分ほどで戻ったことがあり、その時は非常に危機感を感じました。 交通面については、滞在中のフリーパスを手配していただいたことで自由に動き回ることができ、大変助かりました。路線図もそこまで難しいものではないので、電車の種類さえ覚えれば問題なく乗れましたが、地名が頭に入っていない上にすぐに読めないことは不安要素となりました。Googleマップの機能を使えば、どの電車やバスに乗ればいいか、どこを走っているのかは分かるので、スマホを使いこなせればウィーンのような規模の街は問題なく一人でも行動できると思いました。 街の人の印象は、必要以上には他人に干渉しないという意味で、日本人と似ていると思いました。特に大聖堂周辺は、日本人・韓国人を始めとした観光客が多く、自分だけが外国人として目立ったり、特別視されるような場面はありませんでした。逆にウィーン市庁舎前のスケート場で子どもたちに両替をしてほしいと頼まれ、「外国人だからごめんね」と断ったほどです。スーパーやお土産屋さんのレジの人は、何かを聞けば親切に教えてくれますが、どちらかというと淡々と仕事をこなしている印象が強かったです。そこも日本に似ていると思いました。 ウィーンは日本にいるときと大きな違いなく過ごすことができる街ですが、最低限のリスクの認識とそれに対する対策はきちんとしておく必要があると思いました。 -現地でのお食事はどうでしたか?(自炊、外食など) 朝食はホテルのビュッフェで、毎朝美味しく食べました。ソーセージ系ばかり食べると塩分が多い感じはしましたが、比較的様々なものが食べられるビュッフェだったため、自分でコントロールすることは可能でした。メニューはほぼ毎日同じなので、後半は少し飽きてきました。ザッハトルテも出てきて毎朝食べていたので、外のカフェでザッハトルテを食べることもありませんでした。 昼食は一人の時は観光を優先して食べないこともありましたが、他の参加者と一緒の時は主に練習室の近くで取っていました。オリエンテーションの日はオーストリア名物のシュニッツェルを食べましたが、その後はバーガー・老舗カフェ・中華系・ラーメンを食べました。飲み物までつけるとランチだけで3,000円弱の費用がかかるので、個人的には予算オーバーで食費の負担は大きかったです。味はいずれも日本人の口に合うものでした。 夕食も参加者と一緒に食べることもありましたが、部屋で一人で食べる日もありました。日本から持ってきた非常用のアルファ米と味噌汁・スーパーで買った割引されていたお寿司を食べました。ホテルの近所のマクドナルドで食べたこともありました。昼食にコストがかかっているので、夕食で節約し、朝食でしっかり食べるというルーティンでした。 -留学して、ご自身が成長したと思う点や、変わった点などを教えてください。 まず音楽面に関して、ブランクがある私が、1時間×4回のレッスンだけで技術的に奇跡の復活やそこからの成長を遂げる夢のようなことはさすがに起きなかったです。しかし、自己流で弾いていたことや日々の忙しない中で片手間でピアノを弾いていたことに気付くことはできました。また、これまで自分はただ本番や暗譜に弱いだけだと思っていましたが、そもそもグランドピアノというものに慣れていなかった、アップライトピアノとは全く別物なのだということにも気付かされました。だからこそ、10日ほどの短い期間ではありましたが、普段ピアノと向き合う時間があまりない私にとっては、ほぼ毎日グランドピアノを使って、1日3時間前後ピアノ・音楽に向き合う時間を何にも邪魔されずに作れたり、音楽の都ウィーンで演奏会を経験するということは大変貴重な時間でした。それだけでなく、講習会に向けて仕事終わりに練習室を借りて練習時間を少しでも確保するようにしたことによって、ずっと弾けないまま流していたところが少しずつ弾けるようになり、まだまだ時間を取って真面目に練習すれば自分も成長する余地はあるのかなと思えたことも成長した点の一つだと思っています。 次に生活面に関して、様々な手配こそアンドビジョンさんにしていただきましたが、一人で飛行機に乗り、初めて行く外国の空港で乗継ぎ、カタコト英語でホテルまで送ってもらい、何時間も外国の街を一人で歩き回り、10日間も外国のホテルで生活をするという初めての経験…。これまでリスクを考え怖さが上回り踏み出せなかった部分がありましたが、ウィーンの安全性と音楽・ピアノの力で踏み出すことができました。帰国後、その踏み出しに多くの人から驚かれましたが、勤続10年のリフレッシュ休暇を利用して参加しようと何年も前から考えていたことを「想い」だけで終わらせずにきちんと実現できたことは、普段は石橋を叩いても渡れない私にとって大きな成長になったと考えています。 -アンドビジョンのサービスは、いかがでしたか? 仕事が忙しく、メール1通返すのも遅かった私をきちんとフォローしてくださり、全て「最善」の形でご手配いただき、大変感謝をしています。全てをお任せできる場所があるということだけで、荷造りと練習に集中することができて安心感に繋がりました。現地の滞在においても、スタッフの方がいらっしゃったおかげで、友人との旅行時には知りえなかったような情報を教えていただけたり、ただの旅行では行けないような場所で演奏会も経験できたので、本当に満足できる時間を過ごすことができました。 -今後留学を考えている方に、アドバイスをお願いします。 お金と時間が許すならば、音楽のプロを目指していなくても、ぜひ飛び込んでみるべきだと今回の講習会で思いました。周りは留学先や先生探し、更なる高度なレッスンを求めて参加しているかもしれませんが、音楽愛好家こそクラシック音楽の本場の空気や先生の価値観に触れ、曲を理解する機会を作る必要があると感じました。 留学までいかなくても、旅行で訪れ作曲家が過ごした街を見るだけでも、私はその後の曲の感じ方が変わりました。ただの音符の羅列だったものから、1音1音奏でるたびに風景が浮かぶようになりました。 だからこそ、本場の空気に触れることは大切だと思うと同時に、その環境に身を置いてレッスンを受ける意義があると思い、私のように本来音楽留学ができるようなレベルでない人にも門戸を開いているプログラムがあるのであれば、愛好家の方にもぜひ迷わず参加してほしいとアドバイスを贈りたいです。